ホラー初心者がホラー小説を読んだ話──鳥谷綾斗『散りゆく花の名前を呼んで、』
人にはそれぞれの趣味嗜好があるように、好む本も様々です。
小説、実用書、絵本というジャンル分けの中に、さらに小説であればミステリ、ファンタジー、時代小説、純文学とさらなるジャンルがある中で、そのすべてを網羅しているという人はおそらくいないのではないでしょうか。
私もミステリ、恋愛小説、ファンタジー、純文学あたりはたしなみますが、お仕事小説、時代小説、ホラーあたりには縁がありませんでした。
宮部みゆきさんや辻村深月さんが好きなので、『チヨ子』や『ふちなしのかがみ』は呼んだことがあるのですが、理不尽に恐怖に追い立てられるホラーらしい小説というよりは、読んだ後にほっこりする系なので、ノーカンということで。
食わず嫌いはよくないよね!ということで今回はホラーを読んでみました。それが鳥谷綾斗さんの『散りゆく花の名前を呼んで、』です。
http://j-books.shueisha.co.jp/books/chiriyukuhananonawoyonde.html
いつもはアマゾンのリンクを貼っていますが、今回はアマゾンにはないようなのでJump J Booksのリンクと書影を貼っておきます。
サイコメトリー能力を持つ未来(みら)は教育実習生として母校を訪れる。ホラー映画研究会の顧問として生徒たちと親交を深めるも、その部員たちが奇妙な死を遂げる事件が次々発生。事件のカギを握る「キラズさん」とは?未来は生徒たちを守れるのか?
というストーリー。
流行りの「キラキラネーム」やいじめなど「教育現場での課題」、「虐待」などキャッチ―なモチーフが多く使われていますが、物語の中にそれぞれきちんと意味を持って登場しています。
もちろん一冊読んだだけではホラーの何たるかがわかるとは思っていません。あくまで普段ホラー読まない種類の人間が一冊気まぐれに読んでみたら、こんな感じのことを考えたよ、というだけのものを以下に列挙していきます。以下ネタバレも含みますので、未読の方はご注意ください。
ホラー+αの要素がある
例えば、軍事モノ×恋愛である有川浩さんの『塩の街』など自衛隊三部作や、映画でもSFファンタジー×恋愛の「君の名は。」などのように、いくつかのジャンルにまたがって存在しているものがあるように、ホラー×αも存在します。
今回の『散りゆく花の名前を呼んで、』はホラー×ミステリ(×恋愛)でした。この掛け算はあまり増えてしまったり、割合を誤るとごちゃごちゃとした作品になる印象ですが、この作品は適切な割合でホラーとミステリが混ざり合い、スパイスとしての恋愛がきいていたと思います。(職業倫理的にどうなのというのは置いておいて)
死んでいく生徒たちにはそれぞれ殺される理由があり、怪異にもきちんとした理由付けがされ、主人公の未来がそれを解明すべく友人のつてを頼ったり、調べ物をしたりと、きちんと手順を踏み、謎を解いていきます。伏線もきちんと張られているのである程度予想を立て、ミステリと同じような楽しみ方ができました。未来のサイコメトリー能力が万能であったら踏まなくてもいいプロセスではありますが、万能ではない能力というのも一つ、物語の重要な要素になっています。
怖いもの見たさで楽しめる
ホラーなんだから当たり前でしょう!と言った感じですが、お化け屋敷やホラー映画以上にホラー小説は怖いもの見たさで気軽に楽しめるコンテンツなのではないかと思いました。
お化け屋敷やホラー映画は視覚的な要素が強く、「体験」的なものです。それゆえ、見た後に暗闇に影が見えるような気がする、お墓の前を歩くのが怖いなどの後遺症(?)に見舞われることになります。
しかしホラー小説であれば、体験しているのはあくまで登場人物であり、実際に目にしているのは文字の羅列なので、視覚的な怖さではありません。情景描写なども脳内で再現するものなので、怖い部分は読み飛ばしてしまえ、と意識すれば、怖がりな人でも最後まで読み切ることも可能ではないでしょうか。
ただし、想像力が豊かな人や、視覚以外の感覚を強く持っている人にとってはお化け屋敷やホラー映画より怖い、諸刃の剣かもしれませんね。
以上、ホラー小説を普段読まない人間が読んでみたら思ったことをふわっと書いてみた話でした。