ひつじの絵をかいて!

いろいろ拗らせた本の虫女子大生の独り言。すべては主観であり、個人的な意見です。

旅に連れて行った本の話──江國香織『きらきらひかる』

明日から旅行に行く、となったら、あなたはどんな荷造りをしますか?

日程分の服を着回しも考えて用意し、メイクポーチを入れて、あ、ヘアアイロンも必要かもしれない。コンタクトレンズも持っていかなくちゃ。絶対歯ブラシって忘れがちだよね……。と、一般のひとならこのようなところかもしれません。

 

しかし、私や私とよく似たあなたには、荷造りにとっておきのお楽しみがあるはず。

そう、それは「旅行のお供になる本を選ぶ」という一大イベント!!

本棚に並んだ背表紙を見ながら、行く場所、日程、交通手段も加味しながらああでもない、こうでもないと思案する時間は、本好きにとっては旅の山場と言っても過言ではありません。

今回は、私が一人旅に連れて行った本の話をしようと思います。

 

時はさかのぼって去年の二月。大学一年生で書店アルバイトををしていた私は、悲しいことに暇でした。シフトの関係で二月の真ん中にぽっかりと空きができた!なのに周囲の友達は短期留学だのインターンだので充実した生活を送っている!さみしい!

 

「そうだ、京都行こう」私も何かしなくてはならないのではないかと強迫観念に襲われていた大学生が、出した答えがこれでした。海外は一人だと怖いしお金もない。国内で、一人でも楽しめそうで、程よく近場。

予定まで二週間前に唐突に降りてきたアイディアでしたが、高速バスの予約や宿の手配もうまくいき、とんとん拍子で京都行の計画は進んでいきます。

 

残された問題はただ一つ。どの本を旅のお供にするかということ。

高速バスで行くから、移動中に読書は難しい。日中も目いっぱい観光する予定だから、カフェで一休みするときに読む本があればいい。宿泊も「Book and Bed Tokyo Kyoto」tという、泊まれる本屋さんにするつもりだから、夜の本も心配しなくていい。(この記事もそのうち書きたいと思います)

旅は身軽であるに越したことはないから、薄い本が望ましい。

もう一つ、旅に連れて行く本を選ぶときにどうしても譲れないポイントがありました。それは「絶対に面白い本だということ」。旅先で本を補給すると荷物が増えるし、微妙な本を旅の最中で読んでしまうと気分も下がってしまう……。そこで、これまでの旅には以前も読んだことのある本をチョイスしていました。しかし、昔自分で読んだお墨付きの本は安心ではあるのですが、新鮮味に欠けるというのが難点でした。本選びは難航しましたが、これも大事な旅の一環です。(難航しても楽しいし)

 

しかも今回は初めての一人旅なのです。時間が膨大にある分、本のチョイスを間違ったら地獄……!本好きにとってのお供の本選びはそれくらいには重要です。

 

そんなとき、アルバイト先の商品整理で、ある本の装丁に一目ぼれしました。

それが、江國香織さんの『きらきらひかる』。

きらきらひかる (新潮文庫)

きらきらひかる (新潮文庫)

 

 

アマゾンで表示されるこちらの通常カバーではないものが、中古文庫売り場に並んでいました。(バイト先は新本も中古も扱っている書店でした)

白い表紙に、ホログラム加工というのでしょうか、角度によって虹色の光がちらちらと映って見えます。題字も銀色でまさに「きらきらひかる」本。

 

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集英社文庫や角川文庫などの大手レーベルでは、夏になると毎年おすすめの文庫フェアを開催します。その際、文豪の名作が和柄の新カバーに変わったものや、人気芸能人の写真のカバーに変わったものが販売されますが、その一種でしょうか。

 

この本を、京都の川沿いのカフェで読みたい……!

 

面白い本を、できれば荷物にならない本を、と真剣に考えていたはずが、そんな思案は雲散霧消。ほぼ脊髄反射でお供を決定しました。ジャケ買いです。

 

きらきらひかる』は不思議な夫婦ともう一人のお話です。新婚夫婦の笑子と睦月。二人の家の引き出しには、二つの秘密が眠っています。笑子の精神病が正常の域を脱していない、という診断書と、睦月はエイズではないという診断書。笑子はアルコール中毒で精神病、睦月は同性愛者で十二年間付き合っている紺という幼馴染の少年がいます。

そんな一見普通じゃないふたりにとっての、普通の日常が、江國さんの繊細なタッチで描き出されます。肉体関係がなくても夫婦になれるのか。たとえ夫に同性の恋人がいても夫婦になれるのか。妻がアルコール依存症で情緒不安定でも夫婦になれるのか。くるしくて重たい懸念点をたくさん抱えているはずなのに、二人の生活は「きらきらひかる」、かけがえのないもののように思えます。

 

鴨川ホルモー』『夜は短し歩けよ乙女』のように京都を舞台にした本はたくさんあります。しかしあえて京都とは無関係で、私とも無関係な本を連れてきてよかったと思えました。ふつ一人でいることが淋しくなったとき、この土地にとって、周りの人々にとって異質なもの、他者である本を連れていることを思い出せば、少しだけいやされました。

 

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