読書歴の話──①高校二年生編+α
こんにちは。これまでもいくつか記事を書いてきましたが、最初に自己紹介をするのを忘れていたことを思い至ったので、今回は自己紹介がてらこれまでの読書遍歴をお話します。
現在都内の大学三年生で、文系ですが専攻は小説とは程遠い分野です。読書の他にも映画鑑賞や音楽鑑賞を好みます。
幼い時は図鑑と絵本を読み漁っているような子供でした。小学三年生くらいの頃に本格的に読書に目覚め、図書館で借りた三国志全三十巻を読破。主に青い鳥文庫や怪談レストランなどを学校の図書館で読み漁っていました。
このころになると、頑張って貯めれば月に一冊くらいは好きな本を買えるくらいのお小遣いももらっていたので、『若おかみは小学生!』シリーズを買うのが楽しみでした。周囲の子供は「本を買うから」と言えばお小遣いがもらえて褒められるのに、私の家は絶対にくれないのでうらやましいと思った記憶がありますが、次から次へと本を読んでいたので、母の判断は妥当だったと思います。もしすべて買っていたら、それこそ本で床が抜けるほどだったかもしれません。
いわゆる大人の本を読むようになったのは小学五年生くらいの時。青い鳥文庫で宮部みゆきさんの『マサの留守番』を読んだのがきっかけでした。創元推理文庫の『心とろかすような』のなかから小学生に読ませても大丈夫そうな話を抜き出して、イラストを付けたものです。
マサの留守番 -蓮見探偵事務所事件簿- (講談社青い鳥文庫)
- 作者: 宮部みゆき,千野えなが
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/04/15
- メディア: 新書
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ここから『ステップファザーステップ』などに広がり、なぜか『ダヴィンチコード』、『1Q84』にもその次くらいに手を出しました。内容は今ではすっかり覚えていません。
本を選ぶ方法は人それぞれかと思いますが、私は作家縛りで読む派です。宮部みゆきさん、東野圭吾さん、有川浩さんあたりを手あたり次第読んでいました。
中学生になると部活動が忙しくなり、読書は一時中断。全く読まなかったというわけではありませんが、これと言って読書にまつわるエピソードは思い出すことができません。
またたくさん本を読むようになったのは高校生になってからでした。私立の高校だったので、図書室が新しくて居心地がよく、蔵書も充実していたのです。市立図書館で借りようとすると百人待ちもざらの本が、本棚の隅に普通にある! それに感動した私は図書室に入り浸っていました。
読書歴を記録し始めたのはこのころからです。iPhoneのメモ帳にベタ打ちしているだけですが、今現在まで続けています。高校一年生のものは見つからなかったので、高校二年生のものをご紹介します。
私の読書歴 高校二年生(2016年)
一月
(サラバ!は衝撃を受けたのを覚えています。長くて描写も密だったのでひいひい言いながら読みました。委員会活動の課題図書のようなもので、強制して読まされました)
二月
宇喜多の捨て嫁 木下昌輝
インデックス 誉田哲也
凍りのくじら 辻村深月
スナーク狩り 宮部みゆき
ブルーマーダー 誉田哲也
(この中にも課題図書が一つ。強制されると普段読まないものを読めてよい面もありました。『凍りのくじら』はこの時初めて辻村さんの作品を読んで感動したもの。これが夏休みへの伏線になっています。近所の書店にオススメの辻村作品の読み方の順番のPOPがあって参考にしました。辻村作品は作品間リンクがあるので読む順番が重要です)
三月
植物図鑑 有川浩
(多分昔好きだったものを再読したんだなあというラインナップ。『ICO』は小学生のころから好きです)
四月
本屋さんのダイアナ 柚木麻子
満願 米澤穂信
悟浄出立 万城目学
ジウ 誉田哲也
ジウ Ⅱ 誉田哲也
ジウ Ⅲ 誉田哲也
(こちらにも課題図書が三冊。こんな時期に『人間失格』を読んだことがあったことに驚きです)
五月
英雄の書 宮部みゆき
悲嘆の門 宮部みゆき
(この時期に新しく発売された『悲嘆の門』は『英雄の書』の続編ということで、復讐をしました)
六月
鹿の王 上橋菜穂子
過ぎ去りし王国の城 宮部みゆき
冷たい校舎の時は止まる 辻村深月
(『鹿の王』『過ぎ去りし王国の城』は昔から好きだった作家さんの新刊ということもあって、この月はとても幸せな月ですね。辻村作品で一番好きな『スロウハイツの神様』にもこの時出会ってはまります)
七月
子供たちは夜と遊ぶ 辻村深月
ぼくのメジャースプーン 辻村深月
夏休み
光待つ場所へ 辻村深月
ふちなしのかがみ 辻村深月
盲目的な恋と友情 辻村深月
ストーリーセラー annex
水底フェスタ 辻村深月
ゼロハチ、ゼロナナ 辻村深月
島はぼくらと 辻村深月
家族シアター 辻村深月
(怒涛の辻村深月さんの夏休み。一気読みできて幸せでした。部活もバイトもしていなかったので、夏休みの間中リビングのソファで本を読んでいました。『博士の愛した数式』は、確か妹の読書感想文を手伝うために再読しました)
九月
フリーター、家を買う 有川浩
ここはボツコニアン5 宮部みゆき
朝が来た 辻村深月
肉小説集 坂木司
(『君の膵臓をたべたい』が出たのはこんなに昔だったんですね。当時高校生ということもありはまりました。『肉小説集』で坂木司さんにも出会います)
十月
こんなにも優しい、世界の終わりかた 市川拓司
楽園 宮部みゆき
きのうの影踏み 辻村深月
(最近『昨日の影踏み』をうっかり再読しました。昔読んでいたことを忘れていて、しかも内容がホラーなので、この既視感は一体……?と震えました)
十一月
ぼくは明日昨日のきみとデートする 七月隆文
(これまでなんとなく手を出していなかった『陽だまりの彼女』を読んで、もっと早く読んでおくんだったと後悔しました。)
十二月
火花 又吉直樹
ナイルパーチの女子会 柚木麻子
(この中にも一つ課題図書が。『火花』はわけわからんとなった記憶があります)
以上五十三冊を2016年は読んでいたようです。授業期間はあまり読んではいませんが、夏休みで怒涛の追い上げをしていました。バイトがない生活は暇ではあったけど、好きなだけ本が読める、今後は訪れることがない貴重な時間であったと思います。
キャラクター小説かと思ったら違った話──雪舟えま『バージンパンケーキ国分寺』
キャラクター小説というジャンルはご存知ですか?
ウィキ先生では「ライト文芸」として紹介されています。まだジャンルとしての歴史が浅いからか、様々な呼び名があるようです。
「ライト文芸」というジャンルには明確な区分けが存在していないが以下のような特徴から「一般文芸とライトノベルの中間に位置する小説」と評されている。
ライトノベルと同じく表紙にイラストを採用している作品が多く[2]、一般文芸と異なり表紙、出版社の公式サイト、店頭POPなどにおいてイラストレータの名前もアピールされていることがある。さらに、作品によってはライトノベルのようにカラーイラストの口絵が付いているものも存在する。ただし、表紙のイラストはアニメ調が主流のライトノベルに対し、ライト文芸ではパステル調が主流となっている。内容はキャラクターを主体にした小説が多い。
(Wikipedia 「ライト文芸」最終閲覧日 2019年3月30日https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E6%96%87%E8%8A%B8 )
ここ十年くらいにめきめきと育ったジャンルなのではないでしょうか。実写映画化もされた三上延さんの『ビブリア古書堂の事件手帖』や、太田紫織さんの『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』、浅葉なつさんの『神様の御用人』など、本が好きな人であれば、知っているタイトルも多いと思います。
正直に言うと、私はキャラクター小説があまり好みではありません。食わず嫌いではなく、実際に『ビブリア』シリーズは持っていますし読んだこともあります。
キャラクター小説は、何人かのメインキャラクターを軸に、各話ごとに新しい話が展開し収束して続いていきます。ものによってはシリーズを通してや、各巻を通しての謎も同時に展開していきます。イメージとしてはテレビドラマの警察モノや弁護士モノの構成です。物語というよりキャラクターがメインなので、漫画的な表面上わかりやすい(ツンデレ、シスコンなど)キャラクター設定のものが多い印象です。
ウィキ先生の引用にもあるように、キャラクター小説は「一般文芸とライトノベルの中間に位置する小説」です。ライトノベルほどかわいいヒロインは求められていませんし、異世界転生でもないのですが、良くも悪くも軽いものが多いように思います。軽いというのは、読みやすいということにも繋がりますが、同時に読者が望むもの、読者受けが良いものでもあります。結果、主人公の重い過去や葛藤などが省かれ、耳障りの良い話が歓迎される傾向にあると考えます。
また、読者受けに関してですが、『ビブリア古書堂』シリーズの栞子さんの胸の描写が男性的過ぎて私は引いてしまいました。男性読者には受けるのかもしれません。
要は、普段一般文芸を好んで読んでいる人間が、違うジャンルに手を出してみたらやっぱり駄目だったというだけの話です。
しかし厄介なのはキャラクター小説は身近にたくさんあるということ。タイトルだけ見て面白そうだ、と思ってもキャラクター小説であることもしばしば。また、最近は一般文芸も文庫などではアニメ調のイラストが表紙であることも多く、うっかりジャケ買いするのも難しくなりつつあります。(もちろんレーベルを見れば大体は分類できるのですが)
あと、一つ日常でしょんぼりしてしまうことがたまにあります。
「私、本好きで結構読むよ!」
と友達などに言われると、テンションが上がる本好きは多いのではないでしょうか。めったにいない同類がいた! と張り切って、
「本当? 私もめちゃめちゃ読むよ! 今はまってるのは綿矢りささんと江國香織さん、あ、宮部みゆきさんも昔から好き」
と返事をしても、
「うーん、ごめん、全部知らないや。私が今読んでるのは『ビブリア』シリーズとか、『珈琲店タレーランの事件簿』シリーズとか!」
と返されてしまうと、ちょこっとへこみます。「そっか」で会話は終了してしまうのです。お互いこれまで読んだ好きな本の話をしても、好きな作家の話をしても、一向にかみ合うことはありません。別に誰が悪いというわけではない、悲しいすれ違いです。
ライトノベル好きは、自らを「ラノベ好き」と称し、「小説好き」のカテゴリに入れることはなかなかないのではないかと思いますが、キャラクター小説は「キャラクター小説好き」というカテゴリが未だ成立していないのが、このすれ違いが生まれてしまう原因と考えられます。
キャラクター小説自体は何も悪くありません。むしろ、本を読む人が減っている今だからこそ、気軽に手に取ることができるキャラクター小説に出版社が競って参入していることも理解できますし、どんな形であれ読書人口が増えることは日本の出版業界にとって、そして私にとってもとてもいいことのはずです。
ただ悲しいかな、人間という生き物は嫌いなものに対してはまあたくさん語れるわけですね。好きなものに関しては「好き」「尊い」とボキャブラリーが貧困になりますが、嫌いなものについてはまあつらつらと書いてしまう。好きの反対は無関心とはよく言ったものだと思います。
さて、前置きが長くなりましたがタイトルに戻ります。
キャラクター小説が苦手な私が、どうしてキャラクター小説だと思った本を読んだかというと、本に飢えていたからです。二月に大きな海外旅行をしまして、口座はすっからかん、だけど本を読みたい。そんなときにいただいたのが雪舟えまさんの『バージンパンケーキ国分寺』でした。
「めっちゃ面白いから!読んで!」という感じではなく、「本読みたいの?よかったらあるからいる?」くらいのノリでいただいたので、読んで感想を言わなくてはというプレッシャーもなく、通勤電車で暇だから読むか、つまらなかったらやめればいいやくらいの気持ちで読み始めました。
表紙はパステルカラーに、柔らかいタッチではありますがキャラクターのイラスト。パンケーキ屋の話なのも、キャラクター小説めいていて(キャラクター小説には仕事を軸にしたものが多いイメージ)、本屋で出会ったのならまず手に取らないタイプの本です。
舞台は国分寺にあるパンケーキ屋。女主人のまぶが一人で営んでいる、なぜか曇りの日にしか店を出さないパンケーキ屋に、訪れた女子高生グループの一人、みほは度々パンケーキ屋に通うようになります。みほは、幼馴染の男の子と親友の女の子が付き合い始めて、二人にどう接していいのか悩んでいました。みほは最初は客として、働き始めてからはアルバイトとしてまぶや、常連の陽炎子と交流をしていきます。みほが最終的に出した答えとは?そして、バージンパンケーキとまぶとは一体──?
というストーリーです。
まず魅力なのがキャラクターの名前。「まぶ」「陽炎子」「明日太郎」「ロイリチカ」「リトフェット」という現実のようなそうでないような独特のネーミングセンスが、世界観を作り上げています。
雪舟えまさんの平仮名の多い独特の文体も、不思議で柔らかい世界観を作り出すのに一役買っています。「よゆう」「あいだ」「どうし」「おおくて」など、漢字で書いてもいいものが平仮名になっていたり、「あれ、この漢字前出てきたときは平仮名じゃなかった? 」と思わせるような絶妙なバランスと不安定な感じが、しあわせな夢の中のような独特の雰囲気の原因ではないでしょうか。
幼馴染ともこれまでのように仲良くしたい、でも親友とも仲良くしたい、そして思春期特有の恋愛への興味を抱えたみほが出した答えも秀逸。現実では考えられないことだけど、このやさしい世界なら可能かもしれないと思えました。
読後感は当たりな純文学を引き当てた時に似ていて、思わずガッツポーズしたくなりました。雪舟えまさんは歌人でもあるんですね。だから小説にはあまりない独特な世界観なのかと納得でした。雪舟さんも私の「ブルドーザーする作家リスト」(私は作家縛りで読んでいくタイプです。詳しくはラメルノエリキサの記事まで)に加入です。
旅に連れて行った本の話──江國香織『きらきらひかる』
明日から旅行に行く、となったら、あなたはどんな荷造りをしますか?
日程分の服を着回しも考えて用意し、メイクポーチを入れて、あ、ヘアアイロンも必要かもしれない。コンタクトレンズも持っていかなくちゃ。絶対歯ブラシって忘れがちだよね……。と、一般のひとならこのようなところかもしれません。
しかし、私や私とよく似たあなたには、荷造りにとっておきのお楽しみがあるはず。
そう、それは「旅行のお供になる本を選ぶ」という一大イベント!!
本棚に並んだ背表紙を見ながら、行く場所、日程、交通手段も加味しながらああでもない、こうでもないと思案する時間は、本好きにとっては旅の山場と言っても過言ではありません。
今回は、私が一人旅に連れて行った本の話をしようと思います。
時はさかのぼって去年の二月。大学一年生で書店アルバイトををしていた私は、悲しいことに暇でした。シフトの関係で二月の真ん中にぽっかりと空きができた!なのに周囲の友達は短期留学だのインターンだので充実した生活を送っている!さみしい!
「そうだ、京都行こう」私も何かしなくてはならないのではないかと強迫観念に襲われていた大学生が、出した答えがこれでした。海外は一人だと怖いしお金もない。国内で、一人でも楽しめそうで、程よく近場。
予定まで二週間前に唐突に降りてきたアイディアでしたが、高速バスの予約や宿の手配もうまくいき、とんとん拍子で京都行の計画は進んでいきます。
残された問題はただ一つ。どの本を旅のお供にするかということ。
高速バスで行くから、移動中に読書は難しい。日中も目いっぱい観光する予定だから、カフェで一休みするときに読む本があればいい。宿泊も「Book and Bed Tokyo Kyoto」tという、泊まれる本屋さんにするつもりだから、夜の本も心配しなくていい。(この記事もそのうち書きたいと思います)
旅は身軽であるに越したことはないから、薄い本が望ましい。
もう一つ、旅に連れて行く本を選ぶときにどうしても譲れないポイントがありました。それは「絶対に面白い本だということ」。旅先で本を補給すると荷物が増えるし、微妙な本を旅の最中で読んでしまうと気分も下がってしまう……。そこで、これまでの旅には以前も読んだことのある本をチョイスしていました。しかし、昔自分で読んだお墨付きの本は安心ではあるのですが、新鮮味に欠けるというのが難点でした。本選びは難航しましたが、これも大事な旅の一環です。(難航しても楽しいし)
しかも今回は初めての一人旅なのです。時間が膨大にある分、本のチョイスを間違ったら地獄……!本好きにとってのお供の本選びはそれくらいには重要です。
そんなとき、アルバイト先の商品整理で、ある本の装丁に一目ぼれしました。
アマゾンで表示されるこちらの通常カバーではないものが、中古文庫売り場に並んでいました。(バイト先は新本も中古も扱っている書店でした)
白い表紙に、ホログラム加工というのでしょうか、角度によって虹色の光がちらちらと映って見えます。題字も銀色でまさに「きらきらひかる」本。
集英社文庫や角川文庫などの大手レーベルでは、夏になると毎年おすすめの文庫フェアを開催します。その際、文豪の名作が和柄の新カバーに変わったものや、人気芸能人の写真のカバーに変わったものが販売されますが、その一種でしょうか。
この本を、京都の川沿いのカフェで読みたい……!
面白い本を、できれば荷物にならない本を、と真剣に考えていたはずが、そんな思案は雲散霧消。ほぼ脊髄反射でお供を決定しました。ジャケ買いです。
『きらきらひかる』は不思議な夫婦ともう一人のお話です。新婚夫婦の笑子と睦月。二人の家の引き出しには、二つの秘密が眠っています。笑子の精神病が正常の域を脱していない、という診断書と、睦月はエイズではないという診断書。笑子はアルコール中毒で精神病、睦月は同性愛者で十二年間付き合っている紺という幼馴染の少年がいます。
そんな一見普通じゃないふたりにとっての、普通の日常が、江國さんの繊細なタッチで描き出されます。肉体関係がなくても夫婦になれるのか。たとえ夫に同性の恋人がいても夫婦になれるのか。妻がアルコール依存症で情緒不安定でも夫婦になれるのか。くるしくて重たい懸念点をたくさん抱えているはずなのに、二人の生活は「きらきらひかる」、かけがえのないもののように思えます。
『鴨川ホルモー』『夜は短し歩けよ乙女』のように京都を舞台にした本はたくさんあります。しかしあえて京都とは無関係で、私とも無関係な本を連れてきてよかったと思えました。ふつ一人でいることが淋しくなったとき、この土地にとって、周りの人々にとって異質なもの、他者である本を連れていることを思い出せば、少しだけいやされました。
本をジャケ買いした話──渡辺優『ラメルノエリキサ』
突然ですが、皆さんはどのように次に読む本を決めますか?
人に勧められたものを読むのか、背表紙を見て直感で選ぶのか、新刊から節操なく読んでいくのか、気になる隣の席のあの子が手にしていた本を読むのか……。様々なタイプの人がいることとは思いますが、私はずばり、「好きな作者の本を読む」タイプの人間です。
本を読むにはそれなりに時間がかかります。薄い文庫本一冊でも、二、三時間はみなくてはなりません。しかし残りの人生は有限!(まだ二十代ですが)世の中には毎日何百冊もの本が送り出されていて、しかも何百年と前から存在する名作もごまんとあるのです。
そんな切迫した(?)状況なのに、つまらない本に余計な時間を取られたくない。
なので、私は好きな作家さんの本を端からあらかた、ブルドーザーのように総なめしていく方法で、読書を続けてきました。
青い鳥文庫などの児童文学から、いわゆる「大人の本」を読むきっかけになったのが、宮部みゆきさんの『心とろかすような』だったので、私の本棚の1割は宮部さんの本で占められています。『模倣犯』、『蒲生邸事件』のような推理小説から、『ブレイブストーリー』、『ドリームバスター』、『ここはボツコニアン』などのファンタジーまで、現代ものはあらかた制覇しています。(宮部さんは時代小説もたくさん書かれていますが、それはもう少し年を取ってから読んでいければと思っています)
宮部さんを制覇してからは、傾向が似ていて、よく聞く作家さんで行こうと、東野圭吾さん(ガリレオ!!)にはまり、誉田哲也(ストロベリーナイト!!)さんにはまり、有川浩さん(図書館戦争!!自衛隊三部作も大好きです)にはまり……。その他にも上村菜穂子さんや森見登美彦さん、辻村深月さんや、綿矢りささんなど、王道エンタメ作家さんたちを好んで読んできました。
しかし、大学一年生まではその読み方を貫いても特に問題なかったのですが、大学二年生の秋ごろ、そろそろ限界を感じてきました。有名どころの気になる作家さんはあらかた読んでしまったような気がする。連想ゲームのように傾向の近しい作家さんを読んでは来たものの、近しいからこそ、もうこれ以上連想しても、同じ作家の無限ループに陥ってしまう……。ここからどうやって新しい本を探せばいいんだ。
すっかり世界が狭まっていた私ですが、頭を抱えながらアルバイト先の書店に出勤してひらめきました。ジャケ買いすればいいんじゃん。
ジャケ買い(ジャケがい)とは、レコード、CD、DVD、本などのメディア商品を内容を全く知らない状態で、店頭などで見かけたパッケージデザインから好印象を受けたということを動機として購入すること。ジャケット買いとも。
(参照:Wikipedia 「ジャケ買い」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B1%E8%B2%B7%E3%81%84 最終閲覧日 2019年3月26日)
ジャケ買いすればいいんじゃん(二回目)。
幸い当時のバイト先は書店。毎日大量の本が入荷しては返品されるのを繰り返しています。普段の商品整理の時は、理性でとどめないと大量の本を買ってしまいそうなので、「これはバイト先の本、私が節操なく買うものではない」と暗示をかけていましたが、それを一度解いてみたら、なんとも魅力的な装丁の本ばかりです。
前置きが長くなりましたが、そうして新刊台に乗っていて一目ぼれした本がこちら!
渡辺優さんの『ラメルノエリキサ』です。表紙で不敵な顔をして笑うセーラー服の少女。ナイフで描いたような書体の「ラメルノエリキサ」という謎フレーズ。なにより宮部さんの推薦コメント「なんて不謹慎な小説!」。
魅力的な表紙に、私が妄信している神様のコメント付き。ジャケ買いにふさわしすぎる本が、こんなに近くにあったなんて……!
『ラメルノエリキサ』は、小説すばる新人賞を受賞した、渡辺優さんのデビュー作です。
愛ネコにけがをさせたクソガキに対して、「殺してやる」と六歳のころからやられたら復讐をモットーに生きてきたりな。女子高生になったある日、夜道で背中を刺され、犯人は「ラメルノエリキサ」という謎のワードを残して逃走してしまう。「お前絶対ぶっ殺すからな! 」復讐に燃えるりなは犯人捜しを始めるが……?
スピード感にあふれた、最高の青春小説です。凝った文体ではないけど、さくさく読めて心地いい語り口も魅力。宮部さん曰く「不謹慎」だけれども、とても健全でさわやかな読後感。もうこの矛盾は、実際にこの本を読んでもらわないと伝わらないので、詳しくは読んでください。
物語の底に流れる、渡辺優さんの哲学も最高で、私のフィーリングと非常にマッチすることも確認したので、「ブルドーザーする作家リスト」に入れました。
文庫がでたからこれも入手しまして、とてもハッピー。
以上、作家ブルドーザー女が、久しぶりにジャケ買いする話でした。